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わが国で「女性活躍推進」というキーワードが掲げられて久しい。第2次安倍晋三政権が「3本の矢」の成長戦略として「女性活躍」を打ち出したのは今から10年前。その2年後には女性活躍推進法が整備され、「遅々として進んでいる」といいたいところだ。
しかし、今年6月に世界経済フォーラム(WEF)で発表されたジェンダーギャップ指数は146カ国のうち125位で過去最低である。特に「政治」分野は世界最低クラスの138位だ。
9月13日に発足した第2次岸田文雄再改造内閣には5人の女性が入閣する一方、副大臣・政務官には女性は皆無。WEFがどう判断するか、興味深い。
私は「女性活躍推進」という言葉がなくならないうちは、日本で真の「女性活躍」の舞台は整わないと感じる。人口割合を見ても、世界の流れを考えても当たり前のように男女差がなくならなければ、環境が整ったとはいえないからだ。
日本で否応(いやおう)なしに進む少子高齢化に伴う労働力人口の減少は、極めて深刻な状況にある。生産性と資本が一定と仮定した場合、実質国内総生産(GDP)は減少に向かう。約536兆円(令和3年)のGDPは2040(令和22)年には480兆円を下回ると試算されている。
しかし、女性の労働力人口比率が男性の比率まで上昇すると仮定した場合、2040年時点での実質GDPは520兆円と試算され、減少幅を約40兆円抑えることができる。
女性が活躍しないのは一言で言うと「もったいない」に尽きる。
話題の「年収の壁」で就労時間をセーブするという問題も残ったままだ。配偶者の扶養から外れて保険料負担が発生する「130万円の壁」は、一時的な収入増の場合、「連続2年までは扶養にとどまれる」と発表されたが、根本解決には程遠い。サザエさんの磯野家の時代と令和のSPY×FAMILYでは家族像も社会も大違いなのに。
私は全国の首長と連携して「女性首長によるびじょんネットワーク」(通称びじょネット)を立ち上げた。やっと50人を超えるまでに増えた女性首長の皆さんに参加を頂いている。今年は6月に栃木県日光市でG7男女共同参画・女性活躍担当相会合に合わせて集まり、10月7日にも女性活躍を進める取り組みなどについて意見交換を行う予定だ。
自治体や女性大使の国の特産品をオンラインで販売中だが、東京駅の構内で販売するマルシェ(10月7日~)も楽しみにしてほしい。
経済や社会が変わるように、人々の生活スタイルも時代によって変化する。価値観が多様化する今日、求められる「真の女性活躍」の姿を国家をあげて追求していかなければならないだろう。
人口減少社会では、労働力人口が不足するため、男女ともに多様な人材を集める組織が勝つ。人口ボーナス期からオーナス期に転じた今、育児中の人も介護中の人も戦力となれる環境を整えることが重要だ。
孫子の兵法に「兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず」という言葉がある。戦いは勝つことが大事だが、長引かせてはいけない。長期的な目標だけではなく、目の前の目標を小分けにしながら着実に前へ進めることの大切さを教えてくれる。
女性が社会で活躍するための課題は多岐にわたる。東京都では、育児は「休み」ではなく、「未来を育む大切な仕事」とイメージを一新するため、育児休業の愛称を公募し、「育業」に決めた。安心して働き、子育てができる環境づくりを目指す。
また、近年、ライフプランとキャリア形成の両立に悩む女性のために企業として卵子凍結に関する社内制度を整えていこうという企業が増えている。東京都はこうした企業に対する助成事業を開始している。子供を産み育てたいという希望があるもののさまざまな事情で難しい方の選択肢の1つとして、卵子凍結に関わる費用や調査への助成を開始する。
女性が自分らしく人生を送るための選択肢を広げられるよう目の前の小さなゴールをたくさん突破していきたい。
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2023年10月1日付産経新聞【女子の兵法】を転載しています